問いと答え14 ・お寺の伽藍の目的はなに?

住職法話>問いと答え>第14回 お寺の伽藍の目的はなに?

問・奈良や京都には立派なお寺があり、観光名所になっています。真宗のお寺とどう違うのですか。また、真宗のお寺は、どんな目的で建てられているのですか。

念仏者の歴史と願いが結集した東本願寺の伽藍

日本に仏教が伝来して、朝廷や豪族によって各地に寺院が建立されました。こうしたお寺は、国家鎮護を目的としたり、権力者が自身の繁栄を祈願したり、また自分たちの先祖の菩提を弔うための寺でした。現在の、奈良や京都をはじめとする各地の有名なお寺は、こうして作られ、維持されてきました。そして今日私たちは、こうしたお寺に、文化財として、あるいは観光資源として接しています。

これに対して真宗の寺院は、権力者によって造られたのではなく、その土地の人々がお念仏の教えを聞くための道場として建てたのです。蓮如上人は、民家よりはすこし棟を高くして、道場とわかるような建物がよいと言われています。

以前にも書きましたが、真廣寺は、織田信長によって焼き払われ、住職が殺害されるという乱世に翻弄された時期がありました。しかしやはり、この土地の先人たちが、お念仏の教えを聞く場を造ろうという願いと、後に生まれてくる者にもしっかりと教えを聞いてほしい、間違いのない人生を送ってほしいと願われ、再建されたのです。

東本願寺の大きな二つの御堂も、天明の大火(長浜のまわりぼとけさんに関わる焼失ですね)や幕末の禁門の変(蛤御門の変)で3度にわたり火災に遭い、焼失しました。

そして現在の御堂は明治維新の混乱が終わりを告げる明治13年から実に15年の歳月をかけて竣工しました。横幅でいえば我が国最大の木造建築物といわれています。明治政府の廃仏毀釈の政策(はいぶつきしゃく・国家神道を推進するための政策に、仏教寺院が全国的に破壊されるということがあったのです)が進められる中、お念仏に生きる者の力を示そうとされた、明治の念仏者のモニュメントであるわけです。

藤場俊基先生(金沢・常讃寺住職)はこう仰います。

「私が合掌してお念仏を申しておりますと、観光客風の人が気付いてくださる人がいます。そうしますと前を横切らないとか、話を止めるとか小声になるなど、気遣ってくださるのがわかるのです。 そこに百人観光客がいても、一人がお参りしていたら、その場所がその人一人のための場所、お参りしているその一人がその場の主役なのです。観光の人はみなその人に遠慮するわけです。見物の方は、お参りしているその人が帰命の心をもって礼拝しているか、あるいはその人は信心がはっきりしているかそういうことは思わないわけです。ただその姿に対して敬意を払ってくださる。とにかくあそこ(東本願寺)ではお参りする人がその場の主役です。これはものすごい大きなことである気がするのです」かくしんの会(新潟)発行『「これまで、今、そしてこれから〜同朋会運動五十年の歩みを機縁として〜』より引用

お寺が観光名所になってしまうか、念仏の道場としての礼拝の場になるか、どこで決まるかと言ったら、お参りする人がいるかいないかということなのです。

よく「ご院さん、お寺はもうあかんで。最近の若いもんは興味を持たん」という声を聞きます。もしかしたらそうかも知れませんね。そうなればお寺に住む者は出て行くしかありません。少なくとも、真宗(浄土真宗)においては、「お寺は住職のものではなく、そこに集う門徒さんのものである」からです。

手を合わす必要がない、とお参りの方から選ばれれば、お寺は目的を失い、存在価値を失ってゆくことでしょう。もしくは立地条件や宝物などから、いわゆる観光寺院として形だけが残ってゆくかも知れません。

それでも、念仏の教えは無くならないと思います。お寺があって念仏が生まれたのではなく、念仏があってお寺が生まれてきたからです。仮に不要とされて滅びることがあっても、また新たに違うかたちでお寺(念仏の道場)は生まれてくることでしょう。まさに諸行無常(ものごとはすべて移ろい変わるという仏教の基本精神のひとつ)です。

つまり、僧侶、門徒共に、今を生きる私たちの生きざまがお寺という建物から問われており、またそこでひとりひとりがどう関わるかで次の時代のお寺の目的やありかたは決まってゆくということです。

おわり

【まめ知識】東本願寺御影堂門楼上にある釈迦三尊像。他の釈迦三尊とことなり「真実の教・仏説無量寿経」の会座、釈尊・弥勒・阿難の三尊が安置されています。

このことにより、東本願寺の御影堂で合掌されますと、奥の院に阿弥陀如来、その手前に宗祖親鸞聖人、そして合掌する人の後ろから釈尊が仏説無量寿経の教えを通して見守ってくださるという構図が完成するようになっています。

これは善導大師の二河白道の譬喩に著された「釈尊の発遣と弥陀の招喚」とも符合する構図なのです。

法蔵館発行「こんなことがききたかった 真宗門徒質問帳 (山本 隆 氏 著)」を底本に編集・加筆し、寺報に掲載したものを転載しております。